大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(く)60号 決定

少年 C(昭和一四・四・二三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、少年Cは抗告人において生後三十五日のときK子より貰い受け養子として養育して来たのであるが、親の知らない間に悪友と交り罪を犯すようになりまことに申訳ありません。抗告人は親としてこれまで可愛がつて育てて参りましたが、何とかして幼ないときのような良い子に立ち戻らせようと努力している折B(十七才位)という悪友に「お前は貰い子ではないか。何でもやれ、やれ。」とけしかけられて、又「自分は通学しており、お前は学校はやめたのだから、自分の罪もお前がしよつてくれ。」と頼まれてそれを真に受けて本件をしたのだと思われます。Cは昭和三十二年一月末から同年三月中旬まで一日も休まず、会社に勤めていたのに、右Bが、Cの朝夕の通勤の途中に待ち受け、そそのかして幾日か会社を休ませ遂に今回の事件となつたのであつて、親としてまことに見るに忍びない悪い友達の行為と思います。抗告人としては、右Bが学校に真面目に行つて勉強し立派な人になるならまあまあというところもありますが、日々見受ける同人の姿は学校にも行かず相変らず悪友と連れだつて町をさまよつている様子です。立派な親があるにもかかわらずわが子Cだけが警察に逮捕され今日に至つておる次第にて、抗告人としては一日も早く少年院から出していただき今度は今までと異つた方法で養育し今一度親として最善の方法を講じたいと考え毎日泣いて暮しています。自分の妻も心配の余り病気にかかり目下養生をしており一日も早く少年院から子供を貰つて来て下さいと泣いております。右の次第により抗告を致しましたというのである。

よつて本件記録を精査検討しこれに現われた諸般の事情を参酌考量するも、原決定には重大な事実の誤認は勿論その処分において著しい不当が存在するものとは到底認められない。本件少年Cに対する処遇として原決定はまことに相当と思料されるのであるから、本件抗告は理由のないものというの外ない。よつて少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条に則り本件抗告を棄却することとして主文のとおり決定する。

(裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

別紙(原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

罪となるべき事実

少年は

一、昭和三一年一一月一日頃の午後五時頃Aより法定の除外事由がないのにも拘ず短刀(刃渡一五・八糎)一振を借受け腹に白木綿のさらしを巻きその中に差して二日間所持し

二、B、Dと共謀して昭和三一年一一月二六日午前七時三〇分頃川崎市堀川町一番地国鉄川崎駅ホームに於てE(当一六年)F(当一五年)に対し、「時計を貸せ」と申向け、これに応じなければ如何なる危害をも加えまじき態度を示して同人等を畏怖させもつてEより腕時計一個(時価四、〇〇〇円相当)Fよりバーバリーコート一着(時価二、〇〇〇円相当)を交付せしめ喝取し

三、B、D、G、Hと共謀して昭和三一年一一月二六日午前一一時頃東京都大田区調布横町二の五二番地東京高校南側多摩川土堤に於てK(当一五年)に対し「お前時計を持つているだろう、質屋に入れて金にするんだが質札はLに渡して出したら返すから貸せ」と申向け、同人が断ると「手前この野郎」と脅迫して同人を畏怖させもつて同人から腕時計一個(時価四、〇〇〇円相当)を交付させこれを喝取し

四、B、D、Gと共謀して昭和三一年一一月二六日午後二時頃東京都千代田区神田錦町三の一番地私立正則商業高等学校々庭に於てM(当一五年)N(当一五年)O(当一六年)に対し返済の意志がないのにも拘ずすぐ返す如く装い同人等に「一寸貸してくれ」と申向けてこれを欺罔しもつてMよりバーバリーコート一着(時価三、八〇〇円相当)及Nよりダスター、コート一着(時価二、五〇〇円相当)及Oより腕時計一個(時価二、〇〇〇円相当)を交付させこれを騙取し

五、B、D、Pと共謀して昭和三一年一二月二七日午後二時三〇分頃川崎市今井南町四三四番地先道路上に於てQ(当一七年)R(当一七年)に対し「時計を貸せ」等と申向け同人等を脅迫して畏怖させもつてQよりタッサー、コート一着(時価一二、〇〇〇円相当)Rより腕時計一個(時価四、五〇〇円相当)を交付せしめこれを喝取し

六、B、D、Sと共謀して昭和三一年一一月二五日午後六時頃川崎市出来町四一〇四番地先道路上に於てT(当一六年)に対し「金を貸せ」と申向け応じない時は危害を加えまじき態度で脅迫して畏怖させもつて同人から男物ジャンバー一枚(時価二、〇〇〇円相当)を交付せしめこれを喝取し

七、S、D、Bと共謀して昭和三一年一一月二五日午後八時頃川崎市○○町×の××番地U方に至り同人に対し「V君が持つているコートは俺のものだが、作つた時、金が足りないのでW君に二、〇〇〇円借りたのでコートをWに預けていたものだが、旅行するのでそのコートを出して貰い度い」と申向けその旨同人を誤信させ同人よりW所有に係るスリー、シーズン、コート一着(時価一二、〇〇〇円相当)を交付せしめ、もつてこれを騙取し

八、B、D、Pと共謀して昭和三一年一一月二七日午後三時頃川崎市下沼部一七四七番地先道路上に於て金品喝取の目的でXに対し「時計を貸せ」と脅迫したが同人に拒否され且、O高校教師に止められ恐喝の目的が遂げえられなかつた

九、更に前記同人等と同日の午後三時三〇分頃川崎市中丸子五一番地O高校五〇米先道路上に於て金品喝取の目的でY、Zに対し「時計を貸せ」と脅迫したが同人に多数の加勢がついたため恐喝の目的が遂げえなかつた

一〇、Bと共謀して昭和三一年一一月二七日午後六時三〇分頃川崎市古川通一五番地太田病院入口に於て同院医院佐野精司所有に係る黒短靴一足(時価四、一〇〇円相当)を窃取し

一一、B、D、Pと共謀して昭和三一年一一月二七日午後七時頃川崎市堀川町一番地川崎駅前公衆電話ボックス側に於てO・K(当一六年)に対し、「腕時計を貸せ」と申向けて応じない時は危害を加えまじき態度を示して脅迫しもつて同人より現金一、〇〇〇円を交付させてこれを喝取し

一二、P、B、Gと共謀して昭和三一年一一月二七日午後九時頃川崎市砂子二の四五番地先道路上に於て、Iに対し「時計を貸せ」と申向けもし応じない時は危害をも加えまじき態度で脅迫して同人を畏怖させもつて同人所有の腕時計一個(時価四、〇〇〇円相当)を交付せしめこれを喝取し

一三、P、B、Dと共謀して昭和三一年一一月二七日午後三時頃川崎市中丸子五一番地道路上に於て金品喝取の目的でY・Sに対し「時計を貸せ」と申向けたが相手が多人数であつたため恐喝の目的を遂げえなかつた

一四、P、B、Dと共謀して昭和三一年一一月二八日午後六時三〇分頃京都市東山区東山三条上ル一筋目西入ル道路上に於て通行中のB・H外二名を呼止め金品を喝取せんと同人等を取囲み多数の威力を示して金品の借用方を強要したが同人等が逃走したためその目的が遂げえなかつた

一五、B、E・H、T・O、S、U・Rと共謀して昭和三二年一月三日午後五時一五分頃川崎市小川町八一番地先道路上に於て金品喝取の目的でO・N、D・Y、S・Oに対し「お前達は蒲田だろう、昨日俺の友達が蒲田でやられて来たがお前達だろう」と申向け同道路脇の空地に連れ込み手拳を以て顔面、頭部等を殴打する等の暴行を加えて同人等を畏怖させ、もつてO・Nより現金一、二〇〇円D・Yより現金三〇〇円をそれぞれ交付せしめ、これを喝取し

一六、B、W、Jと共謀して昭和三二年三月一二日午後一〇時頃川崎市○○○○△△△△番地××合金鋳造所に於て同所代表責任者B・Kの管理による砲金スクラップ約二〇K外五点(合計三〇〇K)(合計額四四、六〇〇円相当)を窃取し

一七、昭和三二年三月二〇日午後六時頃V・L、Wが川崎市所在のさいか屋デパート内より盗んで来た黒コードバン短靴である情を知り乍がら川崎市宮本町七六番地岩田質店にこれを入質しもつて賍物の牙物をなし

一八、昭和三二年三月二一日正午頃V・Lが川崎市堀江町二八番地大丸百貸店よりシルバー携帯ラヂオ一台を窃取してきたことの情を知り乍ら東京都大田区西六郷一の三七番地藤屋質店にこれを入質しもつて賍物の牙保をなし

一九、A・K、W、V・Lと共謀して昭和三二年三月二一日午後三時頃東京都大田区蒲田駅西口商店街に於て商店名不詳のところからマンボ、チヨッキ一枚ネクタイ一本を窃取し

二〇、更に同日同商店街内商店名不詳のところからゴルフ帽子三個を窃取し

二一、昭和三二年三月二一日午後八時三〇分頃川崎市堀川町二九番地京浜川崎駅前道路上に於てA・K、K・Rが川崎市古川通一二番地まるや靴店より黒短靴一足を窃取してきたことの情を知り乍らこれを収受し

二二、A・K、B、N・T、F・Hと共謀して昭和三二年三月二一日午後八時三〇分頃川崎市東町三の五四番地先道路上に於て金品喝取の目的で通行中のO・W、T・Nを呼止め矢庭に両名を殴打して畏怖させもつてO・Wより紺色ジャンバー一枚(時価三、〇〇〇円相当)をそれぞれ交付せしめて喝取し

二三、昭和三二年三月二二日午後〇時頃川崎市小川町八一番地川崎映画街銀星座横道路上に於てK・Y(当一八年)に対し、「そのコートを貸せ」と申向け同人がこれを断るや手拳にて同人の顔面を殴打して畏怖させもつて同人より紺色ダスター、コート一枚(時価四、二〇〇円相当)を交付せしめこれを喝取し

二四、昭和三二年三月二二日午後〇時四〇分頃川崎市堀川町二五番地小美屋デパート内一階便所に於てA・Kが同デパート五階よりスポーツ・ウェアー一枚を窃取してきたことの情を知り乍がらこれを収受し

二五、昭和三二年三月二三日午前一一時三〇分頃川崎市古川通一八番地元川崎ダンス、ホール前道路上に於てV・Lが岡田屋デパートよりネズミ色ガーデガン一枚を窃取してきたことの情を知り乍らこれを収受し

たものである。

二六、尚少年は昭和三一年九月半頃より恐喝傷害、窃盗等の犯罪常習者たるPを会長とした京浜クラブと称する不良グループを結成し不良交遊飲食、質屋出入、喧嘩、婦女子いたずら等をなしその性格環境に照し将来罪を犯す虞れあるものである。

適条法令

罪となるべき事実の一、         につき銃砲刀剣類等所持取締令第二条第一項同法第二六条第一項第一号

二、三、五、六、一一、一二、一五、二二、につき刑法第二四九条第一項同法第六〇条

八、九、一三、一四、          につき刑法第二五〇条同法第六〇条

二三、                 につき刑法第二四九条第一項

一〇、一六、一九、二〇、        につき刑法第二三五条同法第六〇条

四七、                 につき刑法第二四六条第一項同法第六〇条

二一、二四、二五、           につき刑法第二五六条第一項

一七、一八、              につき刑法第二五六条第二項

二六、                 につき少年法第三条第一項第三号

送致すべき理由

少年の非行要因を考察すると(一)保護者が養父母であるため少年に必要以上の愛情がそそがれ、これが少年をして世間知らずのヒステリックナな小児性性格傾向を形成せしめ少年も家庭内で通用した自我が実社会に於ても通用すると云う錯覚さをもつたこと(二)両親が実父母でないことを聞知しそのため両親への愛情、信頼への欠如及少年自身予後に対する不安等心理的に動揺したこと(三)兄(養子)に対する劣等感即ち兄は無口真面目であるため話相手として面白くなく且世間の風評がともすれば兄をよく云つておること(四)少年が中学一年の時先天梅毒の症病を治療したことにより確かではないが遺伝的負因をようしておると考えられること(五)京浜クラブにおつて幼稚な優越感を味つておつたこと等の各要素が少年の情意に交錯し、少年をして、反社会的行為にはしらせたものと思う。而して少年は生活史で示されておる通り昭和三〇年六月頃より不良者の集会場である川崎ローラー、スケート場を根城に不良者と交遊してはタカリ、夜遊びと不良行為をば繰返し、はては京浜クラブと称する不良グループを組織しその主謀的役割を任じて次々と本件非行を重ねるに至り少年の非行性はその度を高めておる状態である。加えて保護者は少年の非行為を知るも何等の具体的措置を講ずる手段を考えずただ従に偏愛態度をとつておる有様で少年の反社会性の培われるのは保護者の盲愛監護にあると云うことは否めないものがある。かくて少年の非行性家庭監護等を勘案し少年の更生意欲をうながし矯正していくには在宅保護の方法ではその効果は認められないので少年院に収容した上、高度の矯正教育を以て図るが相当と認め少年法第二四条第一項第三号により主文の通り決する。(裁判官 井上武次)

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